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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)237号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。

1 成立に争いない甲第二号証(本願発明の特許出願公告公報。以下「本願公報」という。)及び第三号証(昭和六一年七月二八日付け手続補正書)によれば、本願発明は、ヒトの体臭を抑えるために用いられる脱臭性固形石けんに関するものであつて(本願公報第三欄第三行及び第四行)、体臭発生の原因の一部は汗線生成物に対する細菌の作用によるもので(同第三欄第五行及び第六行)、皮膚細菌叢の繁殖を阻害するため固形石けんに殺菌剤を添加することが通常行われるが、その効果には限界があり、細菌の繁殖とは無関係の体臭発生原因があると考えられる(同第三欄第一二行ないし第二一行)との知見に基づいて、慣用されている殺菌剤を含有した洗浄組成物に、脱臭性香料と呼ばれる香料物質を特定の配合により添加することによつて悪臭発生阻止に有効な手段を提供することを技術的課題として(同第四欄第四二行ないし第五欄第二行)、その要旨とする構成を採用したもの(手続補正書第三丁第一行ないし第五丁第一行)と認められる。

そして、前掲甲第二号証によれば、本願公報には、香料は有機化合物の混合物であるが、本願発明が要旨とするモルホリン試験又はリポキシダーゼ試験を満足する物質を脱臭性香料の「成分」、満足しない物質を脱臭性香料の「配合剤」と呼ぶこと(第八欄第一三行、第六行ないし第一〇行)、脱臭性香料の成分は

<1> 天然あるいは合成の単一化合物

<2> 異性体あるいは同族体の合成反応生成物混合物

<3> 天然油、ガム、樹脂及びこれらの抽出物

<4> <3>の合成類似体

の四種類の区分に分類され、<4>には、「天然油、ガム、樹脂及びこれらの抽出物」の完全な類似体ではないが、それらの物質の模倣又は改良の試みの結果として得られた、例えば「ベルガモツトAB四三〇、ゼラニウム(以下「ゲラニウム」という。)AB七六」のような物質が含まれること(第八欄第一五行ないし第三四行)、本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分の「クラス2…精油、抽出物、樹脂および合成油」のうちの「合成油」の例として「ベルガモツトAB三七、ベルガモツトAB四三〇、ゲラニウムAB七六」があること(第一〇欄第一七行ないし第二二行)が記載され、かつ、第一七欄ないし第二三欄に記載されている実施例1ないし4及び5aの「脱臭性香料処方1ないし5」の「成分」として、「ベルガモツトAB四三〇、ゲラニウムAB七六、ベルガモツトAB三七」が例示されていることが認められる。

2 引用例1に審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明と引用例記載の技術内容とは本願発明が脱臭性香料の成分を特定している点においてのみ相違すること、及び、引用例2に審決認定の香料組成物が記載されており、そのうち「クマリン、ベンジルサリシレート、α―イソメチル―イオノン、バツチユリ油、フエニル―エチルアルコール及びジエチルフタレート」が本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分の選択基準を満足することは、原告も認めて争わないところである。しかしながら、原告は、引用例2には、そこに記載されている香料組成物のうち「合成ゲラニウム及び合成ベルガモツト」が本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分の選択基準を満足すると認定する根拠となる記載が存しないと主張する。

そこで検討するに、本願明細書には、脱臭性香料の成分の区分<4>には、「天然油、ガム、樹脂及びこれらの抽出物」の模倣又は改良の試みの結果として得られた「ベルガモツトAB四三〇、ゲラニウムAB七六」が含まれること、及び、本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分の「クラス2…精油、抽出物、樹脂および合成油」のうちの「合成油」として「ベルガモツトAB三七、ベルガモツトAB四三〇、ゲラニウムAB七六」が例示されていることは前記のとおりである。そうすると、原告が主張するように、合成ゲラニウムあるいは合成ベルガモツトに属する物質の中に脱臭性能が十分でなく本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分に該当しないものが存するとしても、脱臭性能が勝れ本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分に該当するものが存することも疑いのないところである。(原告が援用する甲第一〇号証の一ないし三(ガスクロマトグラム)は、天然ベルガモツトと合成ベルガモツトAB四三〇あるいは合成ベルガモツトAB三七とが成分の種類及び量を異にする組成物であることを示しているのみであつて、およそ合成ベルガモツトは本願発明が要旨とする脱臭性香料の成分に該当しないことを示すものでないことはもちろんである。)したがつて、引用例2の記載に基づいて、既知の合成ゲラニウムあるいは合成ベルガモツトの中から固形洗剤の脱臭性香料の成分に適するものを選択し、引用例1に記載されている固形石けんの香料の成分に採用することは、当業者ならば容易になし得た事項と考えるべきであり、右判断は原告が援用する甲第一一号証及び第一二号証(デビツド、チャールズ、フーパーほか一名の宣誓供述書。引用例2の例4に記載されている成分のうち合成ゲラニウムとしてゲラニウムAB七六、合成ベルガモツトAB四三〇を使用した香料組成物を添加した固形石けんの臭気低減価が、〇・四四であつたとの趣旨のもの)によつても、何ら左右されるものではない。

3 したがつて、本願発明は引用例1及び引用例2に記載されている技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

洗浄活性化合物、脱臭性香料及び非香料性脱臭剤を含む脱臭性固形洗剤において、

「ホワイトハウス及びカーターの改良試験法」で測定して、〇・五〇~三・五の臭気低減価を有する脱臭性固形洗剤であつて、右固形洗剤が、

<1> 七五~九九重量%の洗浄活性化合物

<2> 〇・一~三重量%の脱臭性香料(少なくともその四五重量%が、「モルホリン試験」で測定したとき「ラウールの法則」に適合する値より少なくとも一〇%だけ多くモルホリンの蒸分圧を抑制するか、又は少なくとも五〇%の「リポキシダーゼ抑制能力」を有する成分として含まれていなければならない。そして、右成分は、

クラス1‥フエノール構造の香料成分

クラス2‥精油、抽出物、樹脂及び合成油

クラス3‥アルデヒド及びケトンをベースとする香料成分

クラス4‥多環式化合物をベースとする香料成分

クラス5‥エステルをベースとする香料成分

クラス6‥アルコールをベースとする香料成分

から成る六種のクラスに分類されるものであり(ただし、ある成分が二種又はそれ以上のクラスに分類し得るときは、低い方の番号のクラス、あるいは最低の番号のクラスに入れるものとする。)、かつ、前記の成分は、

(イ) 脱臭性香料が、少なくとも七種の成分を含み、そのうちの少なくとも、一種がクラス1、クラス2及びクラス4の各々から選ばれなければならず、

(ロ) 脱臭性香料が、前記の六クラスのうちの少なくとも四クラスの成分を含み、

(ハ) 脱臭性香料の任意の成分が、全香料含量の〇・五%以上を構成する。

ように選ばれる。)、及び

<3> 〇・一~五重量%の殺菌剤、亜鉛塩、抗酸化剤、クエン酸エステル、ジオール及びそれらの混合物から選ばれる非香料性脱臭剤

を含むことを特徴とする、脱臭性固形洗剤。

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